west4番 Par4 右グリーン295y。

お嬢は、傾斜が強い打ち上げコースを眺めて、眉を潜めた。
ティーショットの打ち上げが苦手なのだ。
「なんちゅー顔してんねん。気持ちですでに負けてるよ。」
元ゴルフ部だったひろこが関西弁で突っ込んできた。

いつも通りに打とうと心掛けてドライバーを振ったが、ボールはあまり上がらず右方向へ飛んで行った。
左サイドは浅いOBだし、右サイドは山があり傾斜がきつい。
今日も失敗かと肩を落とした。

ひろこのティーショットは、ど真ん中に飛んだが落としどころの傾斜が強く
ボールがコロコロと20yほど転がり落ちた。

2人は次のショットのために傾斜を登り始めた。
お嬢は、この傾斜を上るたびに、鮭が激し川の流れに逆らって上っていく遡上の様を思い浮かべてしまう。
「2打目はフェアウェイに出して3打目でオンやで。一打失敗しても、次の打席で修正できるのがゴルフの楽しさや。クヨクヨしたらあきまへん。」
フェアウェイの真ん中から、ひろこが大きな声で声援を送った。

2打目は、つま先上がりの打ち上げでグリーンまで170y。
ひろこの言葉を胸に、70y先のフェアウェイに目標を決めると9番アイアンを構え、腰から腰で振り切った。しかし、ボールは反対方向へと転がり、お嬢はさらに山を登る羽目になった。

修正できなかった・・・とガックリしながら、もう1度、70y先のフェアウェイを目指して9番アイアンを構えると、
「スタンス広め、重心低く、つま先体重にして、バランス崩さないようにして大振りせず打つんや!」とひろこが叫んだ。
お嬢は、その通りに構え直して打つと、今度は、フェアウェイまでボールが転がって行った。

ひろこの2打目は、左足上がりの斜面にも関わらず、綺麗な弧を描いて真っ直ぐと青空に飛んで行った。
「ひろこ、ナイスショット!」と叫ぶと、
「うちは、傾斜の練習ばっかりやってるんやで。コースはほとんど傾斜やからな。」と応じた。

お嬢は残り90ヤード、ひろこは残り40ヤード、グリーン近くは傾斜が緩くなっている。
「お互い、グリーン目指して練習してきた通りに打ちまっせ!」
ひろこがお嬢に向かって大阪弁で叫んだ。
お嬢は、ひろこと回ると、個人プレイのはずのゴルフがチームプレイをしているような気分になってきて心強くなる。
再び、ひろこのアドバイスを胸に、グリーンを目指してアイアンを構えた。