馬鹿鍋

後半、丘陸コースのスタートホールに立つと、青々とした美しいフェアウェイが広がった。高く昇った太陽の下に爽やかな風が吹き抜けた。

前半はすっかり話し込んでしまったが、後半は、友情と競争心を入り混じえながら競い合った。子供の頃、仲間同士でかけっこの競争をしたように、時に冗談や驚きを交えながら、誰が1番を切れるか競い合った。ドライバーの音が爽快な気分を駆り立て、一打ごとに彼らの絆が深まっていった。

ラウンドが終わる頃には、夕陽が西の空を染めていた。

夜は晴也が予約をしておいた馬刺し専門店へ足を運んだ。新鮮な馬と鹿のお刺身から始まり、最後に馬鹿鍋を食べさせてくれる老舗店だ。ジビエブームで新しいジビエ店はいくつかできていたが、昔からある老舗店はコロナ禍の影響もあり閉店が相次いでいる。晴也の行きつけのお店はまだ残っていたが、寂しい限りだ。

「こんちはー。」
晴也が扉を開けると、老舗らしい情緒ある店内が目の前に広がる。早速、女店主はお手拭きと冷たいビールを出してくれた。乾杯が終わって一息つく頃、
「いつ閉めるか分からないからね、今のうちに味わって食べておいて。」
といいながら、きれいに盛られた馬刺しと鹿刺しの盛り合わせを出してくれた。
「いつ閉めるか分からない」が口癖になってしまった女店主は、必要最低限の仕入をして細々と店を開けているのだ。

3人は新鮮な馬と鹿のお刺身を堪能し、その美味しさに舌鼓を打った。一升瓶が残りわずかになる頃、馬鹿鍋が運ばれきた。
「桜の麩が乗っている方が馬、紅葉の麩が乗っている鹿だからね。」
馬と鹿の肉が半々にきれいに並べられている。3人は鍋を囲むと湯気の熱で日本酒の酔いがさらに回った。

「アリのパター裁きは流石だね。1パットのカップインが5回はあったよ。傾斜をいち早く正確に読み取るところなんか、精密機械のようだったよ。」
と晴也が今日のプレーを思い出すように振り返った。
「葡萄畑を整地しながら、20m置きに水平器を使って垂直に中柱を打込むのが日課だったんだ。そんな作業を毎日やってるうちに水平器ロボットになってしまったのかも知れない。」
「それよりも、大地は身体の通り、飛ばし屋だね。ビックリしたよ」
大地とプレーをするのが初だったアリは、ドライバーで300ヤード近く飛ばした大地に言った。実際、アリは大地がドライバーを叩くたびに驚きの声を上げていたのだ。
「飛ぶのはいいけど、たまにとんでもないところに行っちまうから、困ってるんだよ。」
と美味しそうに馬鹿鍋を食べながら答えた。

「晴也は流石、コースのことをよく分かっている。晴也のコースマネジメントをマネしたかったけど、テクニックが追い付かなかったよ。」
と言いながら、アリは楽しそうに笑った。

3人は、葡萄畑や将来の展望にも話を広げて時間を忘れて語り続けた。一升瓶を2本開けると女店主に閉店を告げられた。3人は店を出ると仲良く肩を組みながら千鳥足で晴也の自宅まで帰って行った。