三年前の年末、
会社のゴルフコンペで優勝した。
スコアは86。
自分でも出来すぎだと思っている。

うちの会社の社長は、
筋金入りのゴルフ好きだ。
毎年年末になると、
忘年会を兼ねたゴルフコンペを開く。
取引先も含め、
100人近くが集まる大きな催しで、
その年の優勝者は、
しばらく社内の話題になる。

その年、中村大地は社長と最終組で回った。
最終ホールまで一打差の接戦。
最後のパットがカップに消えた瞬間、
社長が笑って言った。

「やられたな」

それ以来、
大地はチャンピオンマンと
呼ばれるようになった。

正直に言えば、
大地はゴルフが上手いわけじゃない。
学生時代、砲丸投げをやっていた。
だからドライバーの飛距離だけは、
誰にも負けない。
構えれば力は自然に抜け、
振ればヘッドが走る。

だが、問題はそこから先だった。

50ヤードのアプローチ。
バンカー。
ピンが近づくほど、体が固まる。

スコアはいつも90台後半。
100を切れないゴルファーだった。

三年前の優勝は、運が良かっただけだ。

それから3年。
会社の人とゴルフに行くたび、
声をかけられる。

「チャンピオンマン、今日はどうした?」
「また本気出してないんですか?」

笑って受け流していたが、
胸の奥がざらついた。

一度勝っただけの男。
そのレッテルが、重くなっていった。

ある日の練習場。
アプローチ練習をしていると、
足元から声がした。

「飛ばす力は、もう十分だ」

白いゴルフボールが、静かに転がっていた。
ゴル先生だった。

「勝負を決めるんは、短い距離だ」
「寄せようとするな。置きにいけ」

それから大地は、練習を変えた。
ドライバーは振らない。
30ヤード、40ヤード、バンカー。

ダフる。トップする。
それでも続けた。

コースにも一人で出た。
スコアは数えない。
寄せと脱出だけを繰り返した。

気づけば、
アプローチで手が震えなくなっていた。
バンカーに入っても、
息が整うようになっていた。

そしてもう一つ。
「チャンピオンマン」という呼び名を、
気にしなくなっていた。

今年の年末コンペ。

スタートホール。
同じ組の誰かが言った。

「今年もチャンピオンマンですね」

大地は、ただ笑った。
深呼吸してクラブを握った。

ドライバーは相変わらず飛ぶ。
だが、無理に攻めない。
ミスしても、慌てない。

アプローチでは、ゴル先生の声が響く。

「結果を取りに行くな。動作をやれ」

バンカーでも、同じだった。

「一発で出そうとするな。砂を打て」

最終ホール。
再び、社長と競り合っていた。

残り40ヤード。
3年前なら、手が固まっていた距離。

だが、今年は違った。

振り幅を決め、
ただ、それをなぞる。

――コトン。

ボールは、ピンそばに止まった。

パットが決まり、
社長がクラブを置いて笑った。

「文句なしだな」

その瞬間、足元でゴル先生が転がった。

「やっとや」
「何がですか?」

「運で勝ったんやない。
 自分の力で勝ったんや」

大地は、深く息を吐いた。

今年は、胸を張って言える。

俺は、チャンピオンだ。